研究所の概要
加齢医学研究所は、「抗酸菌病(結核とらい)の学理並びにその応用の研究」を目的とする「抗酸菌病研究所」として昭和16年に創設され、平成5年には、近代の医学・生命科学研究の急速な進歩と、医療に対する社会的要請の変化に対応する目的で「加齢医学の学理と応用に関する研究」を設置目的とする「加齢医学研究所」へと改組されました。改組に伴い、「遺伝子制御」、「分化・発達医学」、「臓器病態」、「腫瘍制御」、「加齢脳・神経」の5部門に再編され、現在は客員2分野を含む16研究分野及び2寄附研究部門となり、生理的な加齢の遺伝的プログラムを解析し、その破綻によって発症する「難治性癌」や「認知症を伴う神経疾患」などの先端的な診断及び治療を目指した研究を行っています。また、附属施設として、ヒトを含む動物細胞株の収集、保存、供給を行う医用細胞資源センター及び高齢化社会に対応したポストゲノム研究を推進するゲノムリサーチセンターを有しています。
研究内容・特色
臨床研究では、がんの遺伝子診断法やPETによるがん診断法、肺移植システムの開発、癌関連遺伝子の分子生物学的研究成果の臨床への応用、人工臓器の開発、脳神経の精密画像診断法の開発、とくに認知症やアルツハイマー病の画像診断法の確立など、基礎研究では、癌遺伝子、癌抑制遺伝子、DNA修復遺伝子、シグナル伝達分子などを中心とする発癌の分子機構の解明、脳・神経系、血液系などの発生・分化の研究、高血圧、免疫、老化の研究など、医学生物学研究領域全般で優れた成果を挙げています。
また、大学院協力講座として、医学系研究科、生命科学研究科、歯学研究科、農学研究科に協力して大学院生の教育も行っています。
図1[11C] BF-227 amyloid imaging: 東北大学独自に開発したアミロイドイメージング用プローブBF-227によるアルツハイマー病患者におけるアミロイド蛋白の蓄積の様子を示す。左が正常者コントロール。アミロイド蛋白はこの疾患の引き金となる原因物質と目されている。
最近の成果
最近の大きな成果として、肺移植後拒絶反応制御の研究(近藤教授)及びストレス応答の新規の制御因子の発見(田村教授)が挙げられます。
肺移植後拒絶反応制御を目指した基礎的な研究(呼吸器再建研究分野 近藤丘教授のグループ)では、免疫抑制性サイトカインIL-10をラット移植肺へ経気道的に遺伝子導入することで、急性拒絶反応を軽減させることに成功しました。IL-10を遺伝子導入された移植肺では、コントロールに比較し免疫賦活性サイトカインIL-2、TNF-αなどの発現抑制がみられました。グラフトへ特定の遺伝子を導入することで拒絶反応を制御する手法は世界的にも未だ臨床応用されていませんが、免疫抑制剤投与に伴う全身的な副作用を軽減できる可能性がある有望な方法として期待されています。
図2 近藤研:
IL-10を遺伝子導入された移植肺では、コントロールに比べ、急拒絶反応に伴う炎症所見
(浮腫、肺胞内出血、壊死の各所見)が抑制されていた。
ストレス応答の制御機構の研究(遺伝子情報研究分野、田村眞理教授のグループ)では、細胞内ストレス応答シグナル伝達経路の制御因子PP2Cη-2をあらたに同定しました。細胞は環境ストレスに応じて、ストレス応答反応や細胞死の誘導などさまざまな対応反応を示しますが、そこで重要な役割を担っているのがSAPK経路とNF-ĸB経路です。PP2Cη-2は真核生物のセリン・スレオニンホスファターゼの主要な4つのグループの一つであるPP2Cファミリーの新規のメンバーです。田村研ではこれまでに、PP2CβとPP2CεがSAPK経路及びNF-ĸB経路双方の負の制御因子として働くことを報告してきましたが、今回さらに、PP2Cη-2が二つの経路のうちNF-ĸB経路を特異的に抑制することを見出しました。NF-ĸB経路は特に細胞の生存を促進する役割を担っており、この経路を特異的に抑制する因子の存在は、ストレス応答を担う複数のシグナル伝達システムが、それぞれ、極めて精緻に制御されていることを示唆しています。
図3 田村研:
ストレス応答シグナル伝達経路の制御機構