<三層の研究活動と全所的プロジェクト研究>
社会科学研究所における研究活動は、3つの層によって形づくられています。第1は、個々の所員による「専門分野基礎研究」、第2は、研究所内外の研究者による「グループ共同研究」、そして第3は、「全所的プロジェクト研究」です。とりわけ全所的プロジェクト研究は、現代社会の重要な研究課題に取り組む学際的な共同研究プロジェクトであり、本研究所の大きな特徴となっています。これまでに、「福祉国家」「現代日本社会」「20世紀システム」などのテーマを取り上げてきましたが、2000年度から2004年度までは、「失われた10年? 90年代日本をとらえなおす」(“The Lost Decade?:Re-appraising Contemporary Japan”) という研究プロジェクトに取り組みました。このプロジェクトの成果はさまざまな形で発表されていますが、そのエッセンスが、東京大学社会科学研究所編 『経済危機の教訓 : 「失われた10年」を超えてT』 『小泉改革への時代 : 「失われた10年」を超えてU』 (東京大学出版会、2006年)として刊行されました。
<「地域主義の比較研究」プロジェクトと「希望学」プロジェクト>
2005年度からは、2つの新しい全所的プロジェクト研究を4ヵ年の計画で行っています。
「地域主義の比較研究」プロジェクトは、ヨーロッパのEU、南北アメリカのNAFTAやメルコスールなどに続いて、「東アジア共同体」などの言葉で東アジアでもクローズアップされてきた「地域主義」を取り上げ、法学・政治学・経済学の各視座からこれら三地域の地域主義を比較し、それぞれの固有の特徴と普遍的な特徴とを明らかにしながら各地域主義の現状を分析したうえで、東アジアについて、今後の制度化のための理論とモデルを提示することを目ざしています。
「希望学」プロジェクトは、若者たちの多くが未来に対して希望をもつことができないという現状を、若者たち自身にとっての問題であるだけではなく、日本社会そのものへの警鐘としてとらえ、これに社会科学の立場から取り組もうとするものです。希望とはそもそも何なのか、社会のあり方と人びとの希望とのあいだにはどのようなつながりがあるのか、人びとが希望をもって生きることのできる社会とはどのような社会か――全国的な社会調査や岩手県釜石市の総合的調査をつうじて、「希望の社会科学」の構築をめざしています。
<SSJデータアーカイブおよびパネル調査>
全所的プロジェクト研究とならぶ社会科学研究所の特色ある活動は,附属日本社会研究情報センターに設置されているSSJデータアーカイブ(Social Science Japan Data Archive)およびパネル調査です。
データアーカイブは、社会調査や統計調査によって得られた個票データを電子的形態で整理・保存し、二次分析すなわちデータの再分析を行おうとする利用者に提供するという役割をはたすものです。自然科学における実験と同様に、第三者が、同一の個票データを利用して同一の分析手続を踏めば同一の結果が得られるという「再現性」を担保すると同時に、通常多額の費用を必要とする社会調査のデータを広く公開することによって、新たな視点からの分析にも道を拓くという、実証的社会科学研究の基礎的インフラとしての公共的機能をもっています。
SSJデータアーカイブは、民間の調査機関などから寄託された1000を超える調査データセットを公開し、二次分析を行おうとする研究者の利用に供しています。また、二次分析を推進するために二次分析研究会を組織し、とりわけ若手の研究者がSSJデータアーカイブを利用した研究実績を挙げるのを手助けしています。
さらに、大阪商業大学と連携して、日本版 General Social Surveys(JGSS)、すなわち結婚や同居者など家族関係に関する項目、職業や労働時間など就労状況に関する項目、出身家庭や両親の状況、社会活動、政党支持、政治態度・家族観・人生観など意識に関する項目など、広範囲な調査事項を含む総合的で汎用性のある総合的社会調査を実施するとともに、その結果を速やかにSSJデータアーカイブにおいて公開しています。
また、2006年度からは、「働き方とライフスタイルの変化に関するパネル調査」(同一の調査対象者に対する追跡調査)を独自に開始しました。変化しつつある就業、結婚、家族、教育、意識、ライフスタイルのあり方を実証的に捉えようとするもので、第1回の調査では全国の4800名から回答を得ました。今後、5年間にわたり、毎年調査を実施する予定です。