大規模超並列クラスタPACS-CSの開発:
計算科学研究センターでは、平成17 年度より文部科学省から国立大学法人運営費交付金特別教育研究経費を受け、3ヵ年計画で、「計算科学による新たな知の発見・統合・創出」事業を推進している。この事業は、従来型クラスタ計算機の欠点を克服し、大規模な科学技術計算に適した性能・機能を有する超並列型クラスタ計算機“PACS-CS”を開発・製作し、これを用いて、素粒子・宇宙や物質・生命の先端的な研究を推進しようとするものである。“PACS-CS”は、2560 台の計算ノードを総計20480 本のギガビットイーサネットケーブルで結合した超並列型のクラスタ計算機である。全体で14.34 テラフロップス(毎秒14兆3400 億回)のピーク計算性能、5 テラバイトのメモリ、819 テラバイトの分散ディスクを持つ。計算科学の大規模計算を実現可能とする特徴として、1)計算性能とメモリ性能のバランスを保つため、計算ノードのプロセッサ数は1 個に絞り、高速メモリを設置した。2) 計算ノードを結合するネットワークとして、ノードあたり6 本のギガビットイーサネットケーブルを用いる3次元ハイパクロスバ構造の採用により、高いネットワーク性能と柔軟さを低コストで実現している。3) 国産のクラスタ基本ソフトウェアとして国際的に評価の高いSCore を採用し、3 次元ハイパクロスバに対応するネットワーク・ソフトウェアの開発を行って高いネットワーク性能を実現した。高性能計算機システムの性能評価として代表的な標準とされているリンパックベンチマークに対しては10.35 テラフロップス(毎秒10 兆3500 億回)の性能を達成した。なお、開発・製作は、計算科学研究センターと、株式会社日立製作所及び富士通株式会社との三者連携により行われ、我が国における科学技術向けの最先端高性能計算機技術の維持・強化の観点からも大きな意義を有するものである。
電子・原子の量子ダイナミックスを追う第一原理量子計算法の開拓:
現在、さまざまな計算科学の分野で超並列クラスタPACS-CSを活用するための計算手法を研究開発中である。その一つとして、次世代超並列計算機アーキテクチャに適していると考えられる実空間格子上差分計算法による密度汎関数法を開発している。超高速計算システム研究部門との共同により、PACS-CSを含むTFLOPS級のマシン上で、現時点で1000 -2000 原子群の密度汎関数計算が可能となっている。これと同じ理論基盤を持つ実時間密度汎関数計算法によりPACS-CSを用いて計算し、パルスレーザーによって誘起される固体中の電子ダイナミクスにおいて、新規なプラズマ振動の発現を見出すなどの成果がでている。
宇宙シミュレータ“FIRST”プロジェクトと宇宙第一世代天体の起源の解明:
文部科学省特別推進研究「融合型並列計算機による宇宙第一世代天体の起源の解明」(H16〜H19)に基づき、大規模な宇宙輻射流体シミュレーションを行う“FIRSTプロジェクト”を推進した。このプロジェクトの下で、PCクラスタ埋め込み型の重力計算専用ボード(Blade-GRAPE64)を開発し、これを組み込んだ240ノードの融合型PCクラスタ−宇宙シミュレータFIRST−を完成させた。FIRSTは、専用機部分33Tflops、汎用機部分3Tflops演算性能をもち、このような目的で作られた計算機としては、世界初、世界最高速になる。昨年度に引き続き、FIRSTを用いて、@大規模輻射流体シミュレーションコードの開発を行い、これを実装するとともに、A宇宙第一世代星の輻射流体力学シミュレーションを行った。結果として、宇宙第一世代天体においては、これまで言われていたよりも10倍近く星形成効率が上がる可能性が示された。
ILDG(International Lattice Data Grid)の構築:
計算科学においては、大規模計算の進展に伴い、世界的規模で計算データや計算設備を共有し、地球規模の枠組みで研究推進を図る動きが急である。グリッドに関する研究開発として、ヨーロッパ、アメリカなどの関連機関と共同で、計算素粒子物理学分野の計算結果データの共有を目指したILDG(International Lattice Data Grid) の構築を進めている。すでに、基本アーキテクチャを決定し、WebServiceの技術を用いて相互に利用するための仕組みを構築した。さらに、国立情報学研究所が進めているCSI(Cyber Science Infrastructure)の支援を受けて、国内のデータ連携のためのJLDG(Japan Lattice Data Grid)の構築を行った。これは、研究グループごとの仮想組織(VO)をサポートし、広域の分散ファイルシステムgFarmを用いて、密にファイルシステムを共有するシステムである。